「やれやれ。新しい絨毯に変えなければいけませんね。割と、お気に入りでしたのに」
自分の真後ろから聞えて来た声に、耳を疑った。
お手本のような丁寧な口調、落ち着きと渋さを含んだ耳触りの良いテノール。
「小坂部、校長」
一体いつから後ろに?
いや、そんな事より何より、
「…ンで、なんであの人がここに居るんだよ!それに和也と矢木さんは一体どこに消えちまったんだ?!全部、テメーが仕組んだんだろ!」
恐怖と怒りに任せて声を荒げてみるも、何の返答も得られない。部屋に響くのは俺の震えた声と、辻先生と思わしき男から発せられる小さな嗚咽だけ。
「―――」
居心地の悪い空気に、
吐き気が押し寄せる。まさに立っているのがやっとの状態。それでも俺は、クソ校長の姿を瞼に焼き付けようと。
奥歯を食い縛って振り返った。
「!」
殆ど表に姿を現す事のない校長。
記憶に残っている印象といえば、以前体育館で見た穏やかでにこやかなもの。けれど、振り返った先に。そんな校長の姿は何処にも見受けられなかった。
眼鏡の奥の、鋭く冷めた瞳。ピクリとも動かない眉、厭に曲がった口の端。
声が、出なかった。
そんな俺の心中を察してか、校長は一つ笑みを零して口を開いていく。
「苑田君。いや、亜貴君。私は君の事をよく知っているのですよ」
「……は?」
「君のこと、大好きでしたから」
誰か、これが夢だというのなら。俺を引っ叩いて目を醒まさせてくれ。



