十五分後、視聴覚室前 ――side.亜貴


「……っかしーな、」

スマホで時間を確認しつつ、空いている方の指でがしがしと頭を掻く。

「何もなくてもあっても、取りあえずは此処に集合だったよな」

矢木さんと交わした数十分前の約束を反芻しながら、再び頭を掻いた。

残念ながら、俺の方は全く収穫なし。職員室には明かりさえ灯っておらず、和也は勿論その他の人の気配もなかった。


「もしかして、」

最悪の事態になったのか?

一抹の不安が過る。

「って、オイ!」

ここで俺が弱気になってちゃ終わりだろ。

自分自身に強く突っ込みを入れて気持ちをリセットし、深く息を吸った。

「ありえねえって、そんなの。絶対、ダイジョーブ!みんなで帰んだからさ…」

物音一つしない不気味な空間で、自分の独り言だけが反響する。選択を迫られているんだと思った。このまま待つべきか、

動くべきかを。


『学校に、潜入して来る』
『気をつけろよ。まだ人が居るかもしれない』
『矢木さんこそ、あんま無茶すんなよな』

『また、此処で!』

まるで走馬灯のように蘇る新しい記憶に、傾いた心はやっぱり一つだけ。


「行くか」

そう、三人で帰るんだ。

ただ待ってなんか居られない。もしも二人に何かがあったんだとしたら。こんなちっぽけな自分だけど、でも、

「助けられるのは俺だけだろ」

綺麗に磨かれた床と靴が擦れ合って、キュッと小気味良い音を立てる。もう、形振りなんて構っていられない。

前を向いて突っ走るのみだ。