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季節は移り変わり、街全体が白く色付く冬。

「しゃぼん玉とんだ」

私は屋上で独り、しゃぼん玉を飛ばしていた。あの時の指輪をはめて。

「屋根までとんだ、屋根まで、とんで…」

先生が居なくなって、世界は再び灰色に戻ってしまったよ。たった数ヶ月だったけど先生との日々は虹色に輝いていたから。

だから、

先生の居ない世界なんてつまらない。

あの日以来、学校に行く事は殆どなくなった。このままだと恐らく留年するだろう。でも、それでも良いと思っている。




「先生」

天を仰ぎながらゆらゆらとしゃぼん玉を飛ばす。虹色に光るしゃぼん玉を。

自惚れだと言われるだろうか。

『なあ、ユズリ。……なんで俺達はもっと早くに出逢えなかったんだろうね』

でも、私は信じたい。

『頼むよ。此処から天まで届くように、ユズリが飛ばしてくんない?』

先生、

しゃぼん玉。飛ばし続けるから。だから、もう少しだけ、あと少しだけ、

――泣かせて下さい。


春になったら泣き止むから。
春になったら前を向くから。

春に出逢った、最愛の人。


「…春人」

やっと、やっと、貴方の名を呼べた。