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一年前、新春。


「はじめまして。今日から一年間、君達の担任を受け持つ事になった“辻 春人”です。因みに、担当教科は数学。お手柔らかに頼むよ?」

そう軽く自己紹介をしながらにっこりと教卓の前で微笑む担任の姿を、極力視界に入れないように目を伏せた。


矢木ユズリ

私は人と関わる事が嫌いだ。

小学生の時も、中学生の時も、ずっと一人で居た。寂しいと感じた事はない。恐らく、生まれながらの性分なんだろう。

それを自分自身で理解しているし、困った事も特にはなかった。ただ、

「……面倒だな」

無意識の内に独りごちる。長年の、とは言っても未だ十数年だけれど。勘で解るのだ。この担任は自分にとって厄介だと。

そして、私の勘は見事的中する。


「矢木さーん!」

本日全ての日程が終わり、さっさと帰ろうとしていた私のもとへ、――奴が来た。

「大切な話があるんだけど、少しだけいいかな?」

一応、認めたくはなくても担任だ。その人物にこんな風に言われたら断れないじゃないか。もしこれが計算だとしたら恐ろしい事この上ないけれど。

はあ、と。気付かれない程度に小さく溜息を吐き、手にぶら提げていた鞄を肩に掛け直して緩く頷いてみせる。すると、

「そっかあ!良かった~」

まるで小犬のような人好きのする笑顔。

「―――」

この時、私の中で何かがパチンと弾けた。それが何なのかは解らない。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

その事実に、苛ついた。