つうと、

真っ黒な液体が入ったグラスが汗をかく。意を決してそれを持ち上げると、砕いた大きめの氷が小気味良い音をたてた。

「い、いただきます!」

ブラックコーヒーは苦手だ。苦手だけど、勢いで半分以上を一気に飲み干す。ワオ、思ってた以上にクッソ苦げえ。でも、喉は潤った。カラカラに乾いていた喉が。

「―――」

恐らく、なんとも言えない顔をしているであろう俺を見ながら矢木さんは頬杖をついた。

「さて、そろそろ始めるか?」
「……おう」

俺はこれから、矢木さんと先生の過去を知る事になる。残酷で哀しい二人の物語を。



「君が、期待するような話ではないぞ」
「それは…!ちゃんと、…解ってる」
「そうか」
「うん」

「なら、いい」

俺と同じように。

自分用のグラスを持ち上げ、ストローも挿さずに豪快に中身を飲み干していく彼女。まるで、桃園の誓いだなと思った。

そりゃ、此処は宴会の場でも。ましてや酒があるわけでも杯があるわけでもない。あるのは、よく冷えたコーヒーに制服姿の男と女。それでも、込めた想いは似たようなものではないだろうか。

なんとなく、そう思った。



矢木さんの手によって伏せられた写真立て。幸せに形があるのなら、まさにその象徴。切り取られた想い出のワンシーンはきっと、矢木さんにとって掛け替えのない大切なもの。

なあ、和也。

俺の知らないお前のこと。お前の知らない矢木さんのこと、そして校則。先に、全部。俺が受け止めるよ。受け止めて、必ず。


――迎えに行く。