断罪校則

「さあ、行くぞ」

俺の思考を遮るかのように急かされ、さっさと一人でエントランスへと消えて行く矢木さん。それでも未だ棒立ち状態で固まっていると、二度目の催促が飛んできた。

「わ、悪りい!つうか矢木さん、すっげー良いとこ住んでんだな」

指紋認証に虹彩認証

慣れた手付きでそれらのセキュリティを解除していく矢木さんを見て、思わず感嘆の声が漏れる。今の時代、勿論どこもかしこもセキュリティは強化されているけれど、此処まできちんとされた所は珍しい。

「……そうでもない」

いや、俺の家は普通に鍵だけなんだけど。とは言わなかった。






「うわ、」

外観、エントランスもさる事ながら。内装もシンプルでいてデザイナーの拘りが見える豪華仕様。その上ロビースペースまで設置してあったりするもんだから、この先フロントが出てきても俺は驚かないぞと口の端を引き攣らせた。

「テレビでしか見た事ねーわ、これ」

ごく一般的なマンションでは有り得ない、中央の大きなシャンデリア。控えめに、でもセンス良く置かれた観葉植物、季節の花。ふかふかの絨毯。耳を澄ませば、僅かに聴こえてくるのはクラシック音楽。

なんか、もう、レベルが違う。

「まさに高級ホテルって感じだな…」
「おい、無駄口を叩いてないで早く来い」

振り返りもせず、

ピシャリと言い咎められ背筋が伸びた。うん、矢木さんには背中にも目がついてるんですかね。ついてるんだろうな。なんて、バカみたいな事を考えながら溜息を一つ落とし、短く謝罪を入れ、慌てて追い掛けた。

まあ、矢木さんの部屋(まさかの最上階)に着くまで終始驚きっぱなしだったのは言うまでもないだろうけど。