「……亜貴、もう良いヨ」
皮膚に爪が深く食い込むほど、強く握り締めた拳に触れてくる指先。その冷たさにハッとした。
「俺が悪かったンだ。…ごめん、矢木さん。幾ら知らなかったにしても、大切な人の死を。痛みを抉るような真似シて、本当にごめん」
指が、僅かな体温が、離れる。
「亜貴、アリガトね?嬉しかったよ」
そう言って弱々しくも気丈に微笑む和也を見て、泣きそうになった。どうしてお前はいつも全部独りで抱え込んで、俺を置き去りにするんだろう。
独りで、ずっと。そう。ずっと独りで。
「ごめん、本当に、ゴメン」
「っ、かず…!」
ふらふらとした足取りで屋上を後にする和也を、俺は止める事が出来なかった。
和也と矢木さんは、俺なんかには計り知れない哀しみを。傷を抱えて生きているんだ。そんな二人に何を言ったらいい。どんな言葉を並べても、嘘っぽくなってしまいそうで恐い。ああ、だからか。
だから置いて行ったのか。どこまでも優しい親友。お前の方が、大バカ野郎じゃん…
「―――」
残された俺達は、お互いに口を開く事もなくただ時間だけが無駄に過ぎていく。
自由時間の終わりを告げるチャイム。
最後に一度、矢木さんに視線を向けて俺は足を進めた。多分もう、彼女に関わる事もないだろうなと思いながら。けれど、
「――苑田君!」
矢木さんの凛とした声は、
「放課後、少し付き合ってくれないか?」
再び俺の足を打放しコンクリートに縫いとめた。言葉の意味を、理解させるために。



