ガクン、と力無く和也の頭が垂れた。

なにもかもを放棄したように、重力に逆らうこともなく身体を地面に落として俯く。そんな親友の姿を見ていられなかった。


「確か復讐の為だったか?あれは惨い話だったもんな。君の妹、笹原あかりの…」

無意識の衝動が、血液を湧かす。







幾ら相手が年上だとはいっても列記とした女の子で。腕ずくでだなんて選択、普通なら絶対に取らないのに。抑えが効くのに。

気が付いた時にはもう、俺の手は矢木さんの身体を全力で突き飛ばしていて。和也を庇うように、護るような体制で、間に割って入っていた。交わる視線の強さは互いに譲らない。

「何をする!……苑田亜貴!」

声を荒げ、やっと心の内の部分を曝け出した矢木さんに俺も負けてはいられないと思った。ぎゅうと固く拳を握り締め、でも。ハッキリとした声圧で言葉を吐き出す。

「二度と、二度と!その事を口にするな!」

和也が起したという事件を俺は知らない。でも、あかりちゃんの事は。和也の大切な妹の事は知っている。きっと、誰よりも。



「―――亜貴」

『―――亜貴』


なんて残酷なフラッシュバック。

雨の音も、土が溶けだした青臭い匂いも、朱殷に染まった庭の紫陽花も。全部、全部、覚えてる。震える和也の声は、皮肉にもあの日の残像をより鮮明に蘇らせた。


ざあざあと、

止む事の無かった雨と涙。はじめて和也が俺の前で泣いた、――あの日。