「?!」

それは、
俺がホッとしていた一瞬の出来事。

「あまり調子に乗るなよ、笹原和也!」
「――っ痛!」

矢木さんが和也の胸倉を掴んだかと思うと、そのまま女の人とは思えない速さと力で柵に追い詰めて身体を甚振る。

私立とは言えなにぶん古い校舎。特に、メンテナンスが行き届いているとは思えない屋上の柵は、ぐわりと全体が鈍く呼応した。

最悪の事態が頭を過る。

「か、和也あ!矢木さん!ヤめ…」

なんとかしなきゃ。俺が。俺が、二人を止めなきゃって。急いで二人を離さなきゃって、足が方向を変えた、変えようとした筈だった。矢木さんのこの言葉を聞くまでは。


「良い事を教えてやろう。私に脅しは通用しない。いいか、よく聞け。先生はもう居ない、奴等に、……殺されたんだからな!」

殺 サ レ タ

殺された、殺された?

矢木さんの言葉は俺と和也を金縛りにあわせ、声をも奪った。そんな俺達の様子を交互に見た矢木さんは、小さく嗤う。そして、更に信じられないような言葉を口にした。

「…なあ、私に何を求める?君自身で解決したらどうなんだ?その方が早いだろう、天才ハッカーの笹原和也君?」

天才ハッカー?誰が?――和也が?

「……っ!ち、違…」

ほら、和也、違うって…


「違わない。君は中学生の時に事件を起している」
「ちがう!…違うよ、違ウ」
「違わない!」

ピシャリと言い伏せられ、和也の顔が色を失っていく。真っ青を通り越して、白く。白く。嫌だ、止めてくれよ。これ以上、和也を、

「君は警視庁を潰そうとしたな?自分で作ったウイルスを使って」