「アーキー、アンタご飯要らないの?」
「あー、後で食うよ」

ベッドの上で寝転びながら、心ここに非ずな返事を返す。扉の向こう側では母さんがブツブツと小言を言っていたみたいだけど、それは聞かなかった事にした。今はのんびりとご飯を食べている余裕なんてない。

「和也、どうなったかな」

ごろんと寝返りをうって、溜息混じりにスマホを手にとる。

「気になるっつーの」


あの後。先輩の口から出た言葉に、俺達は酷く困惑した。

『和也君か亜貴君、どっちか一人だけね?それとぉ、今日の事を絶対誰にも言わないって約束出来るんならだけど?』

傾きかけたオレンジ色の太陽に照らされ、微笑む先輩。この言葉を聞いて、俺と和也は目をパチパチとさせて固まってしまった。

和也と二人で行く気満々だった俺の考えに対して、先輩の言葉は完全に予想外。隣で黙ってしまっている和也の反応を見る限り、きっと同じ事を考えていたんだろう。

どうしたら良いんだ?

頭の中が軽くパニック状態になってしまっている俺の肩を、和也はそっと叩いてきた。

「俺が行っても良いですか?」

今日一日、

もしも和也が居てくれなかったら。そう考えて、涙が出そうになった。頼りになる親友。ほんと、なんでこんな出来た友人に隠し事が出来るだとか思っていたんだか。

反省と共に、スマホの画面と睨めっこ。

「来い、来い、」

こんなに誰かからの連絡を待ち遠しく思ったのはいつ振りだろう。もしかして初めての経験ってやつ?だって、ライブチケットの当落発表より緊張感がある。

そんなバカみたいな事を考えながらも手にはスマホをしっかりと握り、目は一瞬たりとも画面から離したりはしなかった。

「来い、来い、こ…!」

着信音が鳴るよりも早く、何ならバイブが振動するよりも早く通話ボタンをタップする。

「和也?!」
『…ワーオ、出るの早過ぎだヨ。まだワンコールも鳴ってないのにサ』

電話越しの和也の声が、妙に懐かしくて恋しく感じた。俺、ちょっと重症かもしれない。

「ヤバイ、和也に恋してるかも…」
『はは、タイムリーだネ?なに、俺そんなに今日格好良かったの?』
「マジやべーよ!お前超カッコイイし…って、タイムリー?」
『まあ、それは追々話すとして。本題に入ろうか?亜貴、パソコン繋げれル?』

和也の言葉に、すぐさまパソコンを確認する。最近は全く使ってなかったので、少し埃をかぶっているけど問題はないだろう。

「ん、ああ。いけるっぽい」
『じゃあサ、そっちで話しよう。電話より楽でショ。すぐ、掛け直すから』

了解、と短く賛同して。どうやらかなり長い話になるみたいだなと読み取った。