「なぁ~に?どうしたの?」

緩く巻いた栗色の髪の毛を揺らしながら、先輩が駆け寄ってくる。そんな先輩を尻目に、俺と和也は目を合わせて頷いた。

「突然スミマセン」
「んー、暇してたから良いよ?」
「今度はバスケ部のマネージャーですカ?」
「うん。だって、暇だし」

瀬乃先輩の言葉に、一瞬だけ顔を歪ませる和也。意図せず、嫌な沈黙が数秒流れる。けれど、その沈黙を破ったのは意外にも先輩の方で。

「何か、用があるんでしょ?」

パッと顔を上げた先輩の表情は明るい。

そんな先輩に俺は違和感を覚えた。もしかしたら和也も同じ思いだったのかもしれない。でも、和也は表情を変えずにいつもの調子で返事を返していく。

「流石先輩ですネ?ちょっとだけ聞きたい事があるんですケド、良いですか?」
「うん、良いよー?アユに答えれる事だったらねぇ」
「ありがとうございマス」

にこにこと笑顔の先輩に、同じくにこにこと笑顔の和也。偽りだらけの笑顔のバーゲンセールのなか、俺ひとりだけが終始顔を引き攣らせていた。


「えと、校則違反の事なんですけど?」

ピクリ、先輩の綺麗に整えられた眉が動く。

「前に先輩言ってたじゃないで…」
「ストップ!もしかして鈴木君の事、聞きたいの?」

明らかに、先程までとは別の空気が流れた。その凄まじい豹変振りに、流石の和也も戸惑っているように見える。うん、普通戸惑うし怯む。こんな先輩、知らない。

「アユは鈴木君に捨てられたの!鈴木君の事で呼び出したんなら、帰るから!」

どうやら、変わったのは表情や雰囲気だけではなく、声や態度まで。そんな先輩に少なからず恐怖心を覚えた。

女のヒステリーってもんは理屈じゃない。それは残念ながら自分の経験上とはいかなくとも、一応は把握しているつもりだ。