あれから、鈴木先輩の異変に気が付いたのは三日後の事だった。

瀬乃先輩がマネージャーを辞め、鈴木先輩が部活に顔を出さなくなってからきっかり三日後。

復帰した先輩は、まるで別人のようになっていた。今までの、気さくで明るく。時におどけた様子の。皆が憧れた、皆が惹かれた。あの先輩は、もう居ない。

まるで機械のように規則正しく動くその姿を見て、他の先輩達は口を揃えてこう言っていた。「校則違反組か」――と。

俺達一年生にはその意味がよく解らなくて。先輩達に恐る恐る尋ねてみたものの、返事は全て即答で「詳しくは何も言えない」これだけ。


そして俺は、漸く気が付いた。重大な事に。

矢木さんからのメールの真意。あの、謎の警告メールの意図。目を付けられている、警告、ルール。今にして思えば、これらの全てが校則違反を示している気がしてならない。

俺の考えが正しければ、きっと矢木さんは何かを知っていて、俺と和也は学校側に目を付けられている。それを、伝える為にわざわざメールを送ってきたのだろうと。

勿論、校則違反をしなければ問題はないと思う。でも残り多くの学校生活を、何かに怯えながら過ごして行くなんて冗談じゃない。

瀬乃先輩は言っていた。

『前にクラスの子が五つ違反しちゃったんだけど、三日休んだだけだったもーん』

三日、休んだだけ。

俺も和也も、この言葉が妙に引っ掛っていた。違反者は三日間休まされるだけという処分。確か、生徒手帳にはこう書かれていた筈だ。

“五つ以上の違反者が在れば、それ相応の対処がなされる”

三日間の休みがそれ相応の対処なのか?そんなの絶対におかしい。

何かが、急速に。そして、確実に動き始めている。何で俺が?いや、俺達が巻き込まれなくてはいけないのだろうか。

突然言われた衝撃的な言葉。何の前触れもなく送られてきたメール。尊敬していた先輩の異変。ハッキリと、させたい。

この思いが俺を、大胆に動かせてくれた。


≪メール送信中≫

授業が終わったと同時に、短いメールをある人物に向けて送る。相手がどう動いてくれるかは解らない。それでも、どこか賭けてみたかった。

仄かな期待を寄せ、送信完了の文字を睨み付ける。――さあ、話をしよう。