「校長、苑田亜貴の手術が終わりました」

淡々と、白衣の男は告げる。

手にはカルテのような物に、何かの機械。

「いつも通り、三日後には動ける様になるかと」
「ええ、ご苦労様です」

コツと革靴の踵の音を一つ鳴らし、校長は向きを変えながら右手を上げた。

「もう下がって構いませんよ」
「はっ!」

深く深く頭を下げる男。










――モニタールームの更に奥、

暗く、細い、秘密の小道。ひと一人が通るのがやっとというその道を、ただ真っ直ぐに進んで行く。すると、程なくして見えてくるのはアンティーク調の木製の扉。

「入りますよ?」

一言声を掛け、古色仕上げの真鍮製取っ手をゆっくりと手前に引く。

黴臭い通路から一変。甘い、子供が好みそうなお菓子の匂いと。濃く強い花の香り。

「手術は無事に終わったみたいです」

校長は小さく頭を下げ、目の前の人物に向かって控え目に話し掛けた。

「良かったのですか?」
「―――」

返答はないが、言葉を切る事はしない。

「仕方がありませんよね。心を鬼にしなければならない時もありますから」

コツ、コツ、

薄暗い部屋の中へと足を踏み入れ、校長は一度部屋の中央部で止まった。

「何の為にこの学校が選ばれたのかも、何の為に私が校長なのかも」

コツ、コツ、

「どうしてこの学校だけに、七つ目の校則が布かれているのかも。どうして件の娘の想い人を、こちら側へ引き入れたのかも。全ては貴方の思いのままに」