名もなき傍観者

「おいしいー!」


「お、うまいか!そいつは良かった。」


「お父さんってこんな料理上手だったっけ?」


「いや、初めてだよ。ひまり、ハンバーグ好きだったろ?だから作ってやりたくて、レシピ見ながらだけど、頑張ったんだぞ。」


「すごくおいしいよ!初めてなんてびっくり!お父さん才能あるよ!」


「ははは!じゃあお店でも出すか!」


「まずは他の料理も勉強してね!」


「そうだな。ハンバーグだけのお店じゃアレだしな。」


「あはは!わたしが毎日試食してあげる!」



「頼んだぞ!」



こんな当たり前の会話を。
ありふれた日常を。
ずっと見ていたいと思った。



「お父さんとこんなふうに話せる日が来て、わたし嬉しいよ。」


「ああ、父さんも嬉しいぞ。ひまりが頑張ってくれたおかげだ。本当にありがとな。」


「うん!もうわたしのこと忘れないでね!」


「忘れるわけないだろう!ひまりは俺の大事な娘だ。ずっとずっとな。」



「良かったぁ。……お父さん。ずっと家族でいようね。」



「ああ、もちろんだ。」



慶三はもう向日葵を忘れることはないだろう。


あの日から一人ぼっちになったひまり。でもけして諦めなかった。
慶三を、大切な父親を、想い続けてきた。

あの日から記憶喪失になった慶三。
その心の中にはたしかに向日葵という存在がいた。


想い合う気持ちが奇跡を起こしたのだ。



二人は
再び家族となった。





第一話 「家族」 fin.