名もなき傍観者

救急箱を取りに行く向日葵。


「ごめんね、てっちゃん。先にお父さんの手当てしちゃうね。怪我痛まない?」


「ああ、俺は大丈夫だから!このくらいツバつけておきゃ治るって。」


「もう、てっちゃんも強がりなんだからぁ〜」


そう言って慶三の手当てを開始する向日葵。



「ありがとう」


「えっ?どうしたの急に?これくらいするのは当然でしょ」


「もちろんそれもだけど、一番はそこじゃない、、、」



「一番じゃないって?」



「俺を見捨てないでくれてありがとう。」



「え…………。」



「俺が記憶喪失の時も、そばにいてくれてありがとう。」



「お父さん………。」



「俺の家族でいてくれてありがとう。」



「私……わたしね……すごくさみしかったよ…」



「ごめんなひまり。ずっと一人にさせて。」



「一人じゃなかったよ……てっちゃんもいてくれたし……周りの友達も支えてくれた……でもね、お父さんの記憶がこのまま戻らないんじゃないかって……いつも不安だった。」



「俺は……父さんはもう、絶対にお前のことを忘れたりしない。」


慶三は向日葵のことをそっと抱きしめる。


「お父さん……ぅぅ…うわぁぁぁぁぁぁ」


向日葵は溢れる涙を止めることはできなかった。


家族は助け合い。
支え合うもの。


記憶喪失だった慶三の中にも、向日葵の存在はたしかにあったのだ。


だから慶三は思い出した。
向日葵という大切な存在を。
家族という存在を。