名もなき傍観者

向日葵の父親、水野慶三はそこに立っていた。


向日葵をたしかに娘と呼んだ。


消えていた記憶が蘇ったのだ。


拳を握り怒りに震えている。



「娘を傷つけたお前だけは絶対に許さない」



「おっさんテメー立場わかってんのかよ？ァァ？」



木村は立ち上がり、怒りを散らす。



「あぁ、全部思い出したよ。金だろ、金ならいくらでも用意するさ。借りた俺だからな。臓器でもなんでも売って、どんな汚い仕事をしても払ってやるさ………でもな」


「あん？」


「娘の事は関係ない。俺はお前をぶっ飛ばさないと気が済まない。」


慶三はまるで別人のような気迫を纏っている。北斗真拳でも継承したんですか！？
こんなことを言ってはいるが内心ボクもホッとしていた。


「お父さんッ！ぅぅ……怖かったよぉぉ…」


「ひまり、ごめんな。今まで、でもこれからは父さんがお前を守る」


刹那_____________


「余裕ぶっこいてんじゃねーぞ、オッさん！！！」


ジャキィィッッッ


鋭利な音を立てて鋭い閃光が走る。



慶三は紙一重で交わすが、わずかに触れたのか頬から一筋の血が垂れる。


「お父さんッ！大丈夫！？」


「ナイフか、ああ大丈夫、かすっただけだから」



「丸腰のおっさんがいつまで余裕でいられるかなぁ」



木村はさらにナイフを振りかざした。


「オラァ！死ねやァァァー！！」


慶三はまたも紙一重で交わす。
だがそのまま体勢を崩してしまう。


地面に膝をついて動きが止まる。


チャンス！とばかりに木村がナイフを大きく振りかざした。



ザグッッ！！！！


「お父さんッッ」


向日葵は叫ぶ。
ボクも叫びたかった。


なぜなら慶三は振りかざされたナイフを右手で受け止めた。正確には右手でそれをつかんだのだ。
右手から腕をつたって血が流れる。



それでも慶三は前を見ていた。
倒すべき敵を見据えていた。



「捕まえた……」



慶三の力のこもった眼光に、木村は食われた。猛獣に狙われるただの餌のように。


「な、なんなんだよぉお前」


ナイフを掴んだまま慶三は立ち上がる。
そして左手で拳を作り力を込めた。


「父親だッ！クソヤロォォッ！！！！」



慶三の左拳が木村を吹き飛ばす。


「グボォオエッッ ！」


木村は再び壁に叩きつけられ、鼻から血を出して倒れた。



……………。



「あーあ、ハデにやってくれたねぇアンタ」



その一部始終を見て冷静に口を開いたのは、鉢屋だった。