名もなき傍観者

荷物をまとめようもする向日葵に、男はそれを制止するように



「逃げてもまた見つかるよ、それこそ一番危険だよ、俺がなんとかするから」



「なんとかするって、お父さんお金なんてないじゃん!!!」



向日葵の口調が強くなる。



「とはいえ、君を危険な目に……」

「君って誰!?そんな呼び方しないでッッ!私はあんたの娘だッッ!!」


「ごめん……本当に……でも君を、いやひまりを守りたいんだ。家族を守るのが父親の役目だ」


ボクは、
この男のことはよく分からない。
でもこの人は人の親なんだ。
向日葵の父親なんだ。
ボクの代わりに……
向日葵を守ってくれる人なんだ。



「お父さん…………。ごめんなさい。あんな言い方して。お父さんの気持ち嬉しいよ。」


「向日葵、父さんがなんとかするから。今日はとりあえず寝なさい。」


「…うん、わかった」



自分の部屋に戻る向日葵。



暖かい言葉の中に、一抹の不安が混じる。



明日になれば、
この人の記憶はまた…………。