月下美人が堕ちた朝

沈黙がこんなに心地良いなんて知らなかった。

まるでこの空間だけ時間が止まっているような錯覚に陥る。

あたしは突然、子供の頃の出来事を思い出す。

カズヤの後ろに回り、その背中の健康骨あたりに自分の右手を置いた。

「どうした?」

振り向きそうになったカズヤを静止させて、あたしはまた自分の罪深さに負い目を感じる。

あたしの右手が置いてある場所には、十センチぐらいの切傷がある。

決して深くはないけれど、傷跡は一生消えない。

小学校三年生のとき、二人でいつもの通学路を歩いていた。

周りの友人たちに、どんなにからかわれても、あたしたちは手を繋いで家までの道を帰っていた。

それがあたしにとって当たり前のことだったし、カズヤにとってもそうだったんだと思う。

あの日、ただ少し天気が良かったから…。

だからあたしは「探検をしよう」と、カズヤに言った。