幻想か、現実か。

タオルについた血の理由がフラッシュバックする。

だけど違う。

妄想癖が邪魔をして、変な想像を駆り立てているだけだ。

きっとあれはあたしが怪我をして拭いただけだ。

そうだきっと。

それが妥当だ。

あたしは小走りになりながら、タクシーを探した。

十メートル程して、後ろからタクシーが来て停車させる。

バッグの中からメモ用紙を出して、運転手に突き出す。

「はい、ここに行けば良いのね」

普段、こんな運転手に当たったら勝手にドアを開けて降りるところだけど我が儘は言わない。

あたしは返事をして、未だ収まらぬ動悸を静かにさせることに努めた。

先程の運転手とは違い、この運転手は何も話さない。

ただ赤信号で停車するときだけ、何度か舌打ちをしたり深い溜め息を吐いたりした。

深夜の道路はスムーズにあたしをスバルのもとへ運んでくれる。