とっくに帰宅した看護師が片付け忘れたパイプ椅子を見つめながら、突き付けられている現実に向き合おうと悶えていた。

妊娠した。

この幼稚で、体が弱くて、訳の分からない精神病の、あたしが。

そして父親はいないのだ。

一昨日の夜、別れたのだから。

一昨日の夜、死んだのだから。

だけどあたしは確実にこのお腹に在る命の母親だ。

ユウコさんの女の勘は、間違いなんかじゃなかったのだ。

あたしは布団の中で、自分のお腹に手を当てる。

膨らんでるはずはない。

動くはずもない。

だけど在るのだ。

命が在るのだ。

それなのに、あたしはこんな所で横になって、何をしているのだろう。

あたしは目を瞑って、もう一度だけ体を起こしてみる。

暗闇の中でまた渦巻きに襲われる。

だけど吸い込まれるわけにはいかないのだ。

そのまま上半身を起こし、適当な手捌きで点滴の針を抜いた。