彼は黙ったままのあたしに溜め息を吐いて、あの部屋を出て行ったのだ。
彼の背中に、あたしは「さよなら」と言った。
最後まで、年上の女という威厳を保ちたかった。
泣き付いたりは、出来なかった。
その後、あたしは気付いたらベランダで朝を迎えていて、月下美人の死体に酷く同情していたんだ。
空白の記憶。
あの時、あたしがスバルを引き留めていれば…。
現実は、変わっていたのだろうか。
あたしはとてつもない罪悪感に襲われ、フミカの声を遮断した。
携帯電話の電源を切ると、あたし以上に悲しそうな顔をしているカズヤが言った。
「人違いだと思った。
そう、思いたかった。
だけど年齢も名前も、アミの恋人と一致してたから…。
昨日の夜、刺されたってニュースで言ってた。
今朝、サクラザワ公園で発見されたらしい」
あたしは妙に冷静な気持ちで、今朝の11時からのラジオで流れたニュースの内容を思い出していた。

