月下美人が堕ちた朝


泣きじゃくるフミカの声が、ただの雑踏のように耳を通過する。

脳細胞が、まるで彼女の言葉を拒絶しているようだ。

何ヲ、言ッテイルノ?

フミカに聞きたいことは山ほどあるのに、それが喉を通らない。

「ねぇ、アミ…。
聞いてる?
昨日の晩、何があったの?
ねぇ、アミ…」

昨日の晩…、あたしは…。

スバルの為に、晩御飯を作ってた。

彼の好きな、クリームパスタ。

あたしは、ミートソースが好きだけど、喜ぶ顔が見たかったから。

先月買ったばかりの、切味の良い包丁でトマトを切ってたら、スバルが帰ってきた。

あたしは彼に抱きついて、だけど振り払われた。

それから、それから…。

機嫌が悪そうだから、あたしは黙ってトマトを切り続けた。

そして彼は、あの狭い部屋で言ったのだ。

「疲れた。
別れよう」

あたしは聞こえない振りをして、トマトを切り続けた。