2 感情


三戸さんと葵くん、心の中で彼らの名を口にする。私はもちろんこの二人を知らない。そして何故私がここにいるのかもまた疑問である。そんな私の気持ちを察してか三戸さんは苦笑をこぼしながらで口を開く。

「…君が瀕死状態で運ばれてきた時は驚いたよ。どの医者も断り続けるくらい重症だったからね。覚えてないのも無理はない。…でもその話はまた後日にしないかい?僕もまる三日寝てないんだ。」

大あくびをしながら喋り続けた彼の言葉は少し聞き取りづらかったが、きっとこんなようなことを言ったのだとおもう。
そして私が口を挟む暇もなく彼は奥の小部屋へのそのそと歩いて行ってしまった。

部屋には葵くんと私。目覚めた時とは違って、意識もはっきりとしてきた私はこの空間に居心地の悪さを覚えた。
男の人に耐性がないとか、そういうんじゃなく…なんとなく気まずい空気が漂っていた。
『…楓。』
その空気を破ったのは私の名を呼ぶ彼の声だった。

「は、はい…」 
『楓』
「はい…えっと…」
『……』

それから何故かだんまりの葵くん…
…なんなんだ…彼の言いたいことが分からない…とりあえず何か言わないと、と口を開きかけた途端ーーー