蘭が食べ終わるのを見届け、俺は腰を上げた。


「俺、そろそろ帰るわ」

「あっ、はい。遅くなってしまってすみません」


申し訳なさそうに立ち上がる蘭。


「あっ……これは、クリーニングしてお返しします」

「いいよ、別に」


彼女に貸したベストを受取ろうとすると、


「じゃあ、今度……改めてお礼をさせて下さい」

「お礼?お礼なら今さっきして貰ったじゃん」


目の前にある空の食器を指差す。

けれど、納得がいかないのか曇り顔。


「んじゃあさ、またメシ食いに来ていい?」

「え?」

「うちのお袋、パンの仕上げをするのはすげぇ上手いけど、家庭料理は人並み以下」

「えぇーっ?」

「でもまぁさ、店の切り盛りもあるし、家事って料理以外にも色々あるじゃん?だから、ある程度は我慢しねぇとな」

「………そんな風には見えませんが」

「まっ、実情はそうなんだわ。だから、今日は久しぶりに旨いメシ食わせて貰った。サンキューなっ!」


眉間にしわを寄せる彼女の頭にポンと手を乗せ、自然な笑みを浮かべた。


すると、