奥歯を噛みしめて、厨房のドアを睨みつけてると。


「兄貴、御愁傷様」

「……あぁん?」


俺には珍しく、ドスの効いた声が響く。

いつの間にか、背後に翔が立っていた。


「ランちゃんにフラれたんだろ?」

「っんなわけねぇだろ!」

「だってさっき、見事にクリティカルヒット食らったじゃん」


俺の前に回り込んだ翔はまじまじと俺の頬を眺め、


「うっわッ!ご自慢の顔が台無しじゃん」


嘲笑うように視線を向けて来た。


「うぜぇよ、黙れ」

「ヤダヤダ、八つ当たりは他所でしてよね~」


翔は厨房の入口のドアから顔を入れ、


「親父ーっ!10時からでい~い?」


ガラス越しに親父が合図をしたのが分かった。


「んじゃあ、俺はこれで。……あぁそうだ。兄貴、その頬早めに冷やした方がいいよ~?」


クソッ!!

小馬鹿にするように吐き捨てて行きやがった。


1回絞めないとダメだな、アイツ。