壁掛け時計の針が8時45分を過ぎた、その時。
『おはようございまーすっ!』という、少し甲高い声が聞こえて来た。
―――――来たな。
俺は、入口のドアをねめつけるように視線を向けていると。
ガチャッという音と共に女が姿を現した。
長い髪をきっちり纏め上げ、勿論ノーメイク。
黒いTシャツに白いデニム姿で。
「ッ?!………おはよう……ございます」
「………あぁ、おはよう」
「…………もしかして、翔くんの……お兄さんですか?」
「…………あぁ」
俺の鋭い視線に動揺を隠せないようだ。
けれど、そんな俺をまじまじ見据えた次の瞬間には、フッと表情を崩して、何かを思い出した様子。
―――――俺と視線を合わせるのは、これが2回目。
電車の中で、俺はお前と視線を交えているんでな。
そんな俺の視線を悟ったのか、女は表情を和らげた。
「初めまして………では、ないですね」
「………あぁ」
「バイトの秋月 蘭と申します。宜しくお願いします」
ご丁寧にも深々と頭を下げた。