「あぁ、いいよ」
「でも、どうして?」
「ん?……そうだね。強いて言うなら、ランちゃんが揚げる天ぷらが美味しいから……かな?きっとカレーパンも美味しく揚がると思うんだよね」
「っ……」
久峨家の夕食作り。
奥さんのメモで『天ぷらが食べたい』というリクエストがたまにある。
店で揚げ物をしたりするから、家庭では殆ど揚げていなかったらしい。
だから、初めて私が天ぷらを作った時、物凄く感動したんだって。
お惣菜を買わなくても、自宅で旬の天ぷらが食べられるって。
そんな大した料理でもないのにね。
コロッケやカツはお店で揚げたりするけど、さすがにパン屋に天ぷらはない。
もしかしたら、販売してるお店もあるかもしれないけど、『Anne』には天ぷらを具材にしたパンは無い。
何の気なしに作った天ぷらが、私の厨房修業の礎になっていただなんて……。
感動のあまり、視界が歪む。
そんな私に店長が優しく微笑んでくれた。
「じゃあとりあえず、厨房用の作業帽を被って来て?」
「はいっ!!」



