自宅と学校、そしてママのお店の往復だけだった日常に、ベーカリー『Anne』が加わっただけで、私の人生が色づいたように思えた。
香ばしい匂い。
熱々のパン。
期待感を含ませた瞳。
幸せそうな後ろ姿。
『Anne』には、今まで私が感じて来なかったモノが沢山ある。
商品を大事そうに抱えたお客さんの幸せそうな後ろ姿を見た時、『私もあんな風に思って貰えるパンが作りたい』と思った。
食べてしまえば跡形もなく消えてしまう小さな幸せかもしれない。
だけど、必ず……記憶に残る。
誰が作ったかなんて重要じゃない。
たった一瞬でも倖せにする事が出来る魔法の力がパンにはある。
その魔法の力を私も使えるようになりたい、そう切に思うようになった。
先日周さんが話してくれたように、パン職人は体力勝負の世界らしい。
勿論センスも必要だし、手先の器用さも必要とされるけど。
でも、1番は持続出来る体力。
だから、私はちゃんと3食ご飯を食べるようになった。
サンドイッチの具詰めやあんパンに振りかけるゴマ振り作業だけでなく、もっと責任の重い仕事を任せて貰えるように。



