保健室の中に入ると、驚いたような表情の倉田先生。


「今日は随分と早いんですね」

「………今、少しいいですか?」

「あっ、はい、構いませんが」


いつもなら数分他愛ない会話をするだけ。

と言っても、会話の内容はいつも、手渡すお弁当の中身の話。


倉田先生は去年、5年間の結婚生活にピリオドを打った。

直接本人から理由を聞いた訳じゃないけど、何でも奥さんが若い男を作って出て行ったらしい。


見た目はパッとしない感じだけど、とても温厚で気が利くし、何より優しく包み込んでくれる。

私には父親がいないから、先生を父親像と重ねている所もある。


そして、そんな先生は母親から頼まれたと言って、ご丁寧にも親身になってくれる。

だから、いなくなってしまった奥さんの代わりに、私がお弁当を作ってあげるようになった。

大したものは作れないけど、これは私なりの気持ちだから。



先生は時折、ママの店に来る。

お客さんとして来る事もあるし、ママの友人として愚痴を聞きに来てくれる。


いつもは愚痴を聞く側のママだから、先生の存在は大きいみたい。

養護教諭の資格の他にも心理士の資格を持っているらしく、とても聞き上手なの。


だから、今日は私の相談に乗って貰いたくて……。