「今はまだ言えません」

「じゃあ、いつならいいわけ?」

「いつと言われても………」


蘭は俺の言葉に口籠る。

まぁ、無理に聞き出したい訳じゃない。

人には言えない事なんてごまんとあるから。


俺だって、こんな身なりで『実はパン職人目指してます!』なんて言ったら冗談だと思われるし。

だから、自分が言いたい時が言い時なんだと思う。


「無理に聞きたい訳じゃねぇよ。ちょっと気になっただけだからさ」


人の心に土足で入り込んで良いなんて事は決してない。

ノックして、入室許可を貰ったとしても遠慮するのが日本人の美徳みたいなもんがあるし。


だから、本人が自ら心を開こうとするまで、そっと見守るのがベストなのかもしれない。


自分を偽るにはそれなりの理由がる。

傍から見たら、どうでもいい理由かもしれない。


だけど、本人が考えてしてる行動なら、それを無視するのは俺のプライドに反する。


………俺はいつでも平和主義者なんでね。



「アイスでも食って帰るか」

「え?」

「暑くて死にそう」

「フフッ、はいっ!」


俺が女にモノを買うのは初めてかもしれない。

まぁ、アイスなんて………モノのうちに入らねぇだろうけどな。