気づいたら砂浜を駆け出して
嵐の背中に抱きついていた


嵐は何も言わなかったけど
お腹に回した手を握ってくれた


言葉なんか要らない


花束が沖に流されるのを2人で静かに見つめた



花束が小さくなってようやく嵐が口を開いた


「…今日は兄貴が死んだ日なんだ」

やっぱり…


「俺は墓参りとか法要にも呼ばれない
あの家にとって要らない人間だからな
兄貴は望んでないかもしれないけど…
毎年海に来るようにしてる」


ギューッと回した手に力を入れると
涙が溢れてきた


「どうして死んだのが兄貴だったんだろう」


それって俺が死ねば良かったのに…って
聞こえるよ


「私は嵐を必要としてるよ
嵐が生きててくれて良かった」


「…俺は生きてる意味がないと思ってた
でも、今は愛梨と生きていきたいって思う
そう思う事を兄貴は許してくれるかな…」


「…許してくれると思う」

わかんないけど…そう思うんだ


「昔、死んだお祖母ちゃんが言ってた
生きている人間はその人の分まで
生きていかなきゃいけないって
その人が感じるはずだった喜怒哀楽や
悲しい事も嬉しい事も受け止めて
毎日を過ごさなきゃいけないって」


田舎のお祖母ちゃんは
亡くなったお祖父ちゃんの事を思いながら言ってた


「愛梨の祖母ちゃんは凄いな」


嵐の肩が震えてた


ずっと自分を責め続けてるから
嵐は笑う事がなかったんだ


嵐は振り返って私を強く抱きしめた


「俺は…生きてていいんだろうか?」


「生きててくれなきゃ困る
嵐がいないと私は生きていけない」


そう思うぐらい私は嵐の事を愛してる