「うん。おれは幽霊」

男の子は少し悲しげに笑った。
未だに実感が湧かない。
でも、本当。

『…ごめん、なさい』

「え?」

『信じずに、あんな態度とって』

ごめんなさい。
私、態度悪かった。
悪いことをしたら謝る。
じいちゃんに口酸っぱく言われてたから。
私もそう思うし。
男の子は謝られたことにびっくりしてる。
今度は男の子がおめめぱちくり。
だけどそれは一瞬で。

「…ありがとう。信じてくれて」

って、すごく柔らかくてふわっとした笑顔で言ってくれた。
わわ。
すっごい綺麗な笑顔。
男の子のクセに。

そのとき。

ふわぁ~。

『あ…』

さっきまで探してた、落ちつく匂いが。
むっ…、この匂い…。

『…キミから』

「え?」

そう。
この男の子から香ってる。
フフ。
見~つけた!

『ね、キミ、名前は?』

にこにこ。
今度は素の笑顔。
だって気分がいいんだもん。

「おれの名前?」

『うん。あ、私は澤田 那葵。那覇の那に葵祭の葵で、なぎ』

「おれは桜井 彼方。彼に方角の方で彼方」

かなた…。
桜井 彼方。うん。

『よろしく、彼方』

「え…」

彼方、びっくりしてる。
彼方って名前呼びだめな人?
それとも私と仲良くしたくない?


「那葵ちゃん、おれと仲良くしてくれるの?」


彼方、目、まんまるだよ。
ププッおかしい。

『もちろん』

私はそう言うと、彼方に今日一番のにこにこ笑顔を見せた。