『え…』

私、おめめぱちくり。
見えるって、当たり前じゃん。
だって、机を挟んだ向かいの席に、キミはいる。
優しそうな目つき。
川村先生と同じくらい、ううん、もしかするとそれ以上かもしれないくらいの整った顔。
手触りのよさそうな茶髪。
ほら、いるじゃん。
なのにどうしてそんなこと聞くの?

「えっと…どうしてこんなこと聞くのか、不思議、かな?」

わお。
男の子エスパー。
ばっちり当たり。
私は首を上下に振った。


「おれ、幽霊なんだ」


…は?
幽霊?キミが?

『なに、言ってるの?』

私、オバケとか妖怪とか幽霊って信じてないんだけど。
そもそも、そういう冗談、きらい。
だって私のじいちゃんが去年亡くなってるから。
そういう冗談きらいだし、聞きたくない。

「ごめん。やっぱり信じられないよね」

『当たり前でしょ』

男の子が申し訳なさそうにしてるけど、知らない。
にこにこ、にこにこ。
完全な作り笑顔。
にこ。
だけど、きっと私のオーラは黒。
どんより、誰も来ないような、漆黒。

やめて。
そんな冗談。
絶対言っちゃダメ。
だって、言葉にはすっごい力があるから。

言霊って知ってる?
言葉の通りのことが起こること。
ね、言葉ってすごいでしょ。
そんな強い力で、そんな悪い冗談言っちゃダメ。
だから、そんな冗談きらい。

なのに

「でも、本当なんだ」

『…』

男の子の真剣な瞳。
ワントーン低い声。

「嘘だと思うなら、ちょっとでいいからおれに触れてみて」

…。

すっと、机の上に乗っている男の子の手に触れる。
…ううん、触れようとした。
けど。

『うそ…』

透けた。
私と男の子の手は、触れることなくすり抜けた。
ひんやりした図書室の机が私の手に触れる。
うそじゃなかった。
キミは本当に…。

『幽霊、なの?』