「…那葵ちゃん」

『なぁに』

彼方に名前を呼ばれる。
応える声が震えそうになる。
なんでかな。ちょっと怖い。

「おれ、那葵ちゃんにおれがどうしたいのかが一番大切って言われて考えたんだ」

『うん』

「その通りだと思った」

『…うん』

軽く相槌をうって彼方の目をまっすぐに見つめる。
いつも優しい瞳。
だけど今はすっごく真剣で、まっすぐな瞳。
じっと私の目を見て放してくれない。

「おれは…自分のこと、知りたい」

『…そっか』

「うん。きちんと知って、けじめをつけたいんだ」

真剣な顔。
それがふっ、と一瞬緩んで、いつもの笑顔になった。
彼方の心はまっすぐで、それでいて、眩しい。
キラキラ、あったかい。
私、彼方のそういうとこ好きだよ。人として。
だから、ね。

『私、彼方のこと調べる。彼方の知りたいこと全部』

そう言って、にっ、て笑った。
きっと、これが今私にできる一番のこと。