6月って嫌。
だって雨の日が多いから。

ザーザー…。

今日だってそう。
曇りのち雨。
もうやだ。
学校から帰るの面倒くさい。
雨、嫌い。
しかも今日なんか雨強いし。
放課後、図書室で雨が止むのを待機中。
ふぁあ…。
ねむ。
彼方、すごく真剣な顔で本を読んでる。
今日はお菓子づくりの本じゃないみたい。
何読んでるかわかんないけど。

『…』

じーっと彼方を観察してみる。
うん、本読んでる姿も絵になる。
そう思ってにこにこしてると、彼方が視線を私に向けた。
あ、見すぎた?

「…ねえ、那葵ちゃん」

なぁに、彼方。
そういう意味を込めて首を傾ける。
今日は舞衣ちゃんとちょっと生徒が残ってるから、喋れない。
それにしても彼方、ちょっと表情が暗い…?
何かあったの?

「幽霊ってさ、未練があるからこの世に残っちゃうんだよね?」

うん。
一般的にはそう言われてるね。
メモ帳にかきかき。

〈そうだね。でも、なんで?〉

今になって気になるの?

「えっと…おれも幽霊になったってことは、この世に何か未練があるのかなって思って」

…そっか。
やっぱり、気になるよね。
そりゃそうだ。
気付いたら幽霊になってて、どこかもわかんない学校の図書室から出られない。
おまけに記憶喪失。
自分のこと知りたくなるよね。
でも。

〈わかんない〉

生きてた頃の彼方に会ったことなんてないから。
私は、彼方じゃないから。
わかんない。
けど。

〈けど、彼方はどうしたいの?〉

「え…おれ?」

うん、そう。
彼方がどうしたいのか。
それが一番大切。

〈彼方は、自分のこと、知りたい?自分がどうしたいのかが一番大切だよ〉

「…」

彼方が口を閉じる。
…はっきりしてよ。
イラっとする。

…あれ?
何で、何でイラってしたの、私。
わかんない。
ああだめ。
私の悪い癖。
思ったことをすぐ言ったりしちゃう。
だめ。
今は、だめ。

〈今日、もう帰るから〉

「え?…え、ちょっと、那葵ちゃん!?」

ガタ。
席から立って図書室の引き戸へ。
スタスタ。
彼方の焦った声がうしろから聞こえる。
知らない。
しーらない。
私、今イライラしてるの。
お願い、彼方。
今は放っておいて。
だって、彼方は優しいから。

全部、彼方に八つ当たりしちゃいそうで怖いんだもん。