うちの図書室は利用者が少ない。
月に6~7人しか利用してないし、図書室に通い詰める生徒もいない。
私を除いてね。
これってある意味すごい。

ガラリ。

「那葵ちゃん、今日もいらっしゃい」

『おじゃましま~す』

舞衣ちゃん。
やっぱり今日もいる。
私はいつものように窓際の一番うしろの席に向かう。
昨日と同じ。
ただ、昨日と違うことがある。
それは、メモ帳を持ってきたということ。
なんでかって?
フフ、その内わかるよ。
…あ、彼方発見。

『かーなたっ』

すごく小さい声で呼ぶ。
彼方、昨日と同じところに座ってて、こっちからじゃ顔見えない。
けど、気づいたみたい。

「あっ、那葵ちゃん」

振り返ってこっちを見て、優しい笑顔を浮かべる彼方。
うん。今日も爽やか。


桜井 彼方。
図書室にいる幽霊。
優しい、爽やか系イケメン。
髪はふわっとしてて所々はねてるローズティブラウン系の色。
優しい瞳にちょっとおっとりした口調。
ほんわかした雰囲気。
背は多分180cm越え。でか。
違う学校の制服着てるから、他校生?
心が落ちつく香りがする。

彼方、自分が幽霊になった理由を知らないらしい。
記憶喪失幽霊。

「那葵ちゃん、授業きちんと聞いてた?」

彼方に聞かれる。
私、首を上下にこくこく。
聞いてた、でしょ?
先生の下手くそな授業なら、一応聞いてはいるよ。
…ただ、真剣に授業受けてないだけ。

「うん。えらい」

にっこり。
彼方が笑う。
彼方のこの笑顔、好き。
この笑顔は、絶対に人を和ませる効果がある。
きっと私は昨日この笑顔を見たから、彼方と普通に接することができる。
そう思える程の、笑顔。

〈ありがと〉

私はメモ帳にそう書いて彼方に見せた。
だって彼方は私以外には声も聞こえないし姿も見えないから。
周りの人から見ると私は1人で喋ってるアブナイ子みたいに見える。
だから彼方は普通に喋るけど、私は筆談。
ね?
メモ帳持ってきた意味、わかったでしょ?
フフ。

〈なんか、このやり取り私と彼方の秘密みたいだね〉

って、思ったことを書いて、彼方に見せる。

「っそ、そうだね」

…彼方、動揺してる。
口に手を当てて、隠してる。
でも、ほっぺ真っ赤だよ?
イチゴみたい。
ププッ。
これから楽しくなりそう。

そう思った私と、動揺してる彼方の間を、開いた窓から入ってきた咲き残った桜の花びらが通り過ぎていった。





【4月 キミと出会った桜の季節】