『ねぇ、小虎。
何かあった?』
いつも通り、前の席に座る隼人が何の前触れもなく聞いてきた。
『伏見と、
…梨央ちゃんと、何かあった?』
「…なんで?」
隼人の質問に、何かひっかかる。
「お前…なんか知ってんの?」
『え、』
隼人が口を開く前に、隼人の襟ぐりを掴みこちらへ向かせる。
「言えよ」
『……梨央ちゃんはお前の事が好きだよ。
何をしても手に入れたいくらい。』
「お前知ってたのかよ。
じゃあなんで『梨央ちゃんが』
隼人が言葉を遮る。
『俺は梨央ちゃんの事が、好きなんだ』
まっすぐ目を見つめて、言う。
苦しそうな目。
『俺も同じ。
どんな形でもいい。梨央ちゃんのそばにいたかった』
俺は、隼人が望むものを持っていた。
知らないうちに。
野並さんの言葉を思い出す。
“『ももが…、ももが奪ったんだよ…っ
私じゃ叶わない事が、ももなら目の前で叶っていく…』”
隼人も同じ思いをしていたのだろうか。
俺はそんなことも知らず、のうのうと生きていたのか。
掴んだ手をゆっくり離す。
「伏見と、別れた。」
隼人の最初の質問に、俺は静かに答えた。