私、巳波優里(みなみ ゆうり)の平凡なキャンパスライフは、兄の知り合いからのこんな一言で終わりを告げた。

「優里ちゃん、ホストやってみない?」

びっくりとか、そういう次元じゃなかった。ホストって男の人がやるもの…だよね?
「え…私女なんですけど……?あっ、それともあれですか?最近よくある…男装ホストとか!」
「いやいや、俺がホストクラブ経営してんの知ってるでしょ?そこのホストだよ。ついこの前、急に3人も辞めてってさ。人足りなくて困ってんだよ…」
全く理解できない。
兄の知り合い…東堂陵介(とうどう りょうすけ)さんが経営するホストクラブは、この街ではなかなか有名で人気のあるホストクラブだ。陵介さんがスカウトしてきたホスト達は、外見はもちろん、ひとりひとりがしっかりと個性を持ち、あらゆる女性客のニーズに応えられる。

そこに私をスカウトするなんて!
しかも女の私を!
どういうつもりなのだろう…?
「そ、それなら私の兄をスカウトしたらいいんじゃ…」
「確かにな、あいつ顔はいいよ。でもな優里ちゃん、あいつが女嫌いなの知ってるだろ?例えあいつがやる気になってくれても、客は指名した奴をよく見るもんだ。すぐに女嫌いなんてバレるよ。それじゃウチの求めてるもんにはならねえ、そもそもあいつは向いてねえ。」
元から兄をスカウトする気なんてさらさらないといった風に、陵介さんは笑う。

だからと言って………
「なんで私なんですか?」
陵介さんのへらへらとした顔付きがガラリと変わる。
真剣な眼差しだ。
「そりゃ、優里ちゃん。性別なんてこの際関係ない。君に素質ってのを感じたからだ。」
素質??
陵介さんは私のなにを見てそんなことを言っているのだろうか……?
「まあ細かいことは気にすんな。女だってバレなきゃいい。ほら、バイト探してたろ?ホスト、給料いいぜ?」
給料、という言葉に反応してしまった。
私ももうハタチを超えた。そろそろ独立をしなければと思っていたのだ。

私には素質がある…?
数々の人気ホストをスカウトしてきた陵介さんがそう言うのだ。
(やってみようかな…)
そんな気持ちが湧いてきた。
「あー、そうそう!」
陵介さんが思い出したように言った言葉が、私の迷いを消し去った。

「優里ちゃんは兄さん似だからな。ちょーっとメイクすりゃどう見てもイケメンになるよ。」