俺、猿渡 真也―――長年彼女も作らず同期の犬井 都子に片思いしてはや八年。ようやく恋人同士になれたから語ろう。


彼女がドーベルウーマンと言われる由来を。


スラリとしなやかな体はモデル体型で「犬のサラブレッド」と呼ばれるドーベルマンのそれと良く似ていて、


おまけに労働犬・警備犬として活躍する犬種であるから、難しい訓練にも耐えられる非常に頭の良い犬であることから犬井と掛けてそう呼ばれているのだ。


つまり犬井 都子は女ながら頭が良くてやり手。じゃなきゃ室長なんて地位任せられないだろう。



「お♪犬井さんが通った♪ラッキー☆いい香りがするぅ~」

「美人だよな!犬井さん」

「でもサラブレッドだぜ?ドーベルウーマンは誰にも落とせないよ。

見ろよ、あの近寄りがたい雰囲気。

眺めているだけで十分」





同僚たちが噂をしているのを何度も耳にした。


俺もそんな”ドーベルウーマン”に恋をした一人のサル……もとい男。


俺は―――


入社してすぐの研修会ではじめて偶然隣同士になったあいつと一週間程オリエンテーリングを共にして、あいつがその美人な顔に似つかず可愛い性格をしていることを知ったのだ。


隣同士自己紹介をしろと研修長の仰せで、俺たちははじめて向き合った。


ふんわり香ってきたのはバニラとラベンダーの香り。


「趣味はお菓子作りです」


はにかんむような君の笑顔。





恋に堕ちた瞬間だった。





でも素直になれない俺は、その笑顔が眩しくて直視できなくて―――


「顔に似合わず可愛い趣味してんね。中学生かっつうの」


中学生はどっちだとツッコミたいほど、ぶっきらぼうに言い返したっけ。


「はぁ゛―――……?」


そこから俺たちの犬猿コンビは出来上がった。






でも今は―――


「犬井~♪♪今日一緒に帰ろ~ぜ!」


「はぁ!?何で私があんたと!」


今日も俺たちは仲良く喧嘩。


俺だけの



ドーベルウーマン♥






~Fin~