そう思っていたら、
「何にも知らねえのかよ、兄ちゃん」

「――昨日会ったばかりですから、何も…」

答えようとしたら、また腹を蹴られた。

(もうダメだ、ヤバい…!)

意識が遠くへ行きそうになったその時だった。

「おまわりさん、こっちです!

こっちで誰かが殴られてます!」

悲鳴みたいな声で、誰かが呼んでいた。

「チッ、誰か通報しやがった」

その言葉を言い残すと、男たちが走り去って行った。

代わりに誰かが笙の前に現れて、躰を抱きあげられた。

「大丈夫ですか?」

聞き覚えのある声に、笙は呟いた。

「――明菜ちゃん…?」

明菜が心配そうに、笙を見ていた。

そこで笙の記憶は終わった。