君と花を愛でながら

お客さんが入ればある程度の時間までは延長するけれど、ゼロなら夕方六時で閉店。
この辺りは大学やオフィスが多くて、ランチのお客様を逃せば夜は余り客入りは見込めない。


どうしても、お酒やしっかりした食事の出る店に客足は向いてしまうからだ。
壁の時計を見上げれば、ちょうど六時を指していた。


「あっ。今日もお迎えがきたよお姫様」


片山さんの言葉に、私はくるんと振り向いて店の外に目を向ける。
ガラスの向こうに、背の高いすらりとした立ち姿を見つけて、私は小さく手を振った。


「毎日毎日、過保護な彼氏だよねえ」
「えっ、やだ、違いますよっ! ただの幼馴染ですっ!」


片山さんにからかわれて慌てて否定するけれど、熱くなっていく顔は止められなかった。
これ以上からかわれまいと、カップに残ったコーヒーを慌てて飲み干す。


まだ少し熱かったせいで、喉からお腹の中まで熱が通って、ぎゅっと目を閉じて堪えた。
そんな私はやっぱりからかわれる対象のようで、横からくすくすと笑い声が聞こえる。


「そんなに慌てなくても」
「誰のせいですかっ」


空になったカップを持って、カウンターの中に逃げたけれどその間も片山さんの追及は止まらずに、言葉が私を追いかけてくる。


「彼氏未満、一歩手前ってとこ? そうじゃなきゃ、毎日お迎えなんて普通来ないって」
「そんなことないです! 別に毎日二人ってわけじゃなくて、お姉ちゃんとも途中で合流したりしてますし」


口では否定するし、実際私達は幼馴染以上でも以下でもないのだけど、片山さんの言葉に緩んでしまう口元を見られたくなくて俯いたままカウンター内の流し台に近づいた。