君と花を愛でながら

「ほらね、暇だったっしょー」


夕暮れ時、天気の良い今日は西日が強い。
日よけにサンシェードを天井から半分ほど下げて、それでも陽射しは暖かく店内に入り込み店の中も外も同じオレンジ色に染めてしまう。


透明な光に、徐々に橙色が滲み始めるのをのんびりと見ていられるのは、暇だから故、なのだけど。


「や、でも! お昼時はちゃんとお客さん入ったじゃないですか!」
「そりゃ昼もゼロじゃ話にならないでしょ」


カウンターに設置されている客用のスツールで片山さんはくるくると周りながらそんな話をする。
私達の休憩用のコーヒーを淹れながら無言のマスターが気になって取り繕う言葉を探すけれど、見つからない。


「どうぞ」
ことん、ことんとカップが二つ、カウンター越しに置かれた。


「ありがとうございます」とそのうちの一つを手に取ってマスターを見上げると、片山さんの言葉なんか何も気にした様子でもなく、目を閉じて自分のカップに口を付けていた。


ほっとすると同時に、少し残念だった。
マスターは、この現状をどうにかしようとは考えないのだろうか。


視線を逸らして、店内を見渡す。
コーヒーの香り漂う、静かな店内。


素敵な店内だけれど、あのオープン前のように花に溢れたスペースは明らかに減っている。
花は売れなければ処分するしかない。


コストがかかることもあり、余りたくさん仕入れることが出来なくなってしまったらしい。