君と花を愛でながら

テーブル席をダスターで拭いて、シュガーポットの中身と紙ナプキンを確認する。
少なければ、後で補充するためテーブル席を覚えておく。


といってもそれほどたくさんテーブルがあるわけじゃないから、簡単だけど。
全テーブルを回って腕時計を見ると、ちょうど開店時刻の九時を指していた。私はカウンターに視線を向ける。


「マスター、お店開けていいですか?」
「はい、お願いします」


客席に面したカウンターがあり、マスターはその中でカップを一つ一つ湯を張った平たい鍋に浸している。
更に内側には厨房と対面しているカウンターがあり、そこからひょっこりと片山さんも顔を出した。


「慌てて開けても、客なんてそうそう来ないけどねー」
「ちょっ、そんな」
「無駄口叩いてないで、早く仕込みしてくださいね」
「へーい」


揶揄するような口調の片山さんに、マスターは慣れているのか淡々と言い返す。
たった一週間だけど、二人のそんな空気に最初は戸惑ったけれどもう慣れた。


マスターはノンフレームの眼鏡をかけた、涼やかな目元が印象的な美人さん。
片山さんはモデルさんみたいに整った顔立ちだけど雰囲気が兎に角チャラい。けど、多分、案外気遣い屋さんで優しい。


そして、まったく見栄えもしない私。
このカフェの従業員は、この三人だけだ。


―――あの二人が、カウンター内で揃って立ってれば十分客寄せになりそうなのになあ。


そんなことを思いながら、店の入り口を開け表のプレートを『close』から『open』にひっくり返す。
憧れた、あんなに華やかに見えた『flowerparc』(フラワーパルク)はすっかり寂れたお店になっていた。