君と花を愛でながら



顔を上げてじっと一瀬さんを見つめる私を、彼は不思議そうに見下ろして首を傾げた。



「お……覚えてたんですか?」

「覚えてますよ勿論。お客様に目の前で泣かれたなんてあれ一度きりですし」



忘れてると思ってたんですか?
と、彼が苦笑いをした。


思ってました、忘れてると思ってました。
あれは私だけが覚えてる、ひとりぼっちの思い出だと思ってました。


嬉しくて涙を堪えると顔の中心に力が入って、くしゃりとしたみっともない泣き顔になる。



「そろそろ泣き止みませんと、信也くんも出勤してきますね。それとも、今日はもうお休みにしますか?」



片手で頭を撫でてくれた。
本当に気遣ってくれているのはわかるけど、私はいいえと首を振る。


こんなことで、休みたくなんかない。
ちゃんとお仕事が、したい。


中々止まる気配の見せない涙を止めようと、深く息を吸って飲み込んだ。