「雪さんだけ、会社に残ってしまった?」
尋ねると、自嘲気味に笑って頷いた。
「振られたのは、私の方です。なのに今更仕事に戻れなどと、何が言いたいのやら」
溜息混じりにそう言って、また店を見渡した。
朝の陽が差し込み、店内はとてもキラキラとしてレジ周辺には商品棚に並ぶ花たちも色鮮やかに目に映る。
ふわふわと漂う珈琲の香りの中、穏やかな朝の時間のはずなのに。
恐らくは、これを得るのは雪さんだったのだろうと思うと、胸が締め付けられそうに痛い。
「こんな風に花を眺めながらお茶ができるような、そんな穏やかな生き方がしたかったのですけどね」
”雪と”
敢えて隠された、言葉にはならなかった人の名前に、ぽろぽろと涙が零れてしまった。

