表情が陰り、彼は一度深呼吸をした。
「気付いた時には、もう手遅れで」
淡々と、最低限の単語しか使わない絞り出すような声に、余程その時のことがつらかったのだろうと、それだけは胸に痛いほどに伝わってくる。
「雪さん……ご病気なんですか?」
そう尋ねた私に、一瀬さんは少し顔を上げて首を傾げると泣きそうな表情で笑った。
「大丈夫ですよ、今はすっかり元気なはずです。でなければ復帰して海外出張に行こうなんてしないでしょう」
「そうですか」
それもそうだ、とほっと胸を撫で下ろす。
「ただ、もう相手の体調も気遣えないような生活はしたくなかった。だから、会社を辞めてこの店を始めようと思ったんです。最初は、雪も賛同してくれてたんですけどね……彼女は根っからの仕事人間だったようで」

