君と花を愛でながら



開いた扉の隙間から、珈琲の香りが流れてくる。
一歩店の中へ入ると、空調で既に整えられた心地よい気温が少し汗ばんだ肌を冷やした。



「おはようございます、綾さん」



カウンターの中には、いつもの仕事スタイルの一瀬さんが立ち私に向かって僅かに口角を上げる。
白いシャツの襟もとだけが、まだ開店時間ではないことを示すように寛げられていた。



「おはよう、ございます」



やっぱり居てくれた、という安心感と不確かな言葉で意思が通じ合ったことに胸が高鳴る。
同時に、いつもと違った空気にどうしても緊張して近づくほどに表情が硬くなることに自分でも気が付いていた。



「今朝はもう、準備はすませてありますから。処分する花もありませんし」



だから座ってください、と目線が一瀬さんの正面のスツールを示した。