君と花を愛でながら


翌朝、いつもより二本早い電車に乗った。
ただそれだけで、日常から少し逸脱したような気持でドキドキした。


昨日より低い気温、低い位置からの日差し、少ない人通り。


だけど早く行かなければと、気持ちが急いた。
なぜなら、一瀬さんは言ったから。



『綾さん、明日にしましょう。気を付けて』



その時は何とも思わなかったけれど、もしかしたらいつもより早く、店に降りてきてくれるんじゃないかって。


私と一瀬さんが、いつも唯一、二人きりだった時間だ。


店の前に着いて、深呼吸する。
鼓動がさっきまでより早いのは、小走りで来た所為だけじゃない。


居なかったら居なかったで、寂しい。
だけど、居たらなんて言おうか最初の言葉に迷ってしまう。


それでも少し呼吸が落ち着くと、私は躊躇いなく扉に手をかけた。
カラコロと、カウベルだけがいつもと同じ音を聞かせてくれた。