雪さんのための、お店。
その言葉に、嫌でも知ってしまう。
二人にとってこのカフェは、とても大切なものだったということを。
それは多分、「こんな店」と言い捨てていた雪さんにとっても。
「それを、捨てて行ったのがお前だろ」
抑揚のない声で答える、一瀬さんにとっても。
「……今日はもう帰れ。感情的過ぎて話にならない」
冷やかに聞こえる一瀬さんの言葉に、雪さんがびくっと肩を震わせた。
何か言い返そうと唇を開いたのが見えたけれど、結局彼女は言葉には出さないまま、スツールに乗せていたバッグを乱暴に手に取った。
がたん、とバランスを崩したスツールが揺れる。
「雪さん!」
顔を伏せ、床を睨んだまま雪さんが私達の横をすり抜けてすぐ。
激しくカウベルが鳴った。

