君と花を愛でながら


肩にかけた鞄の口を開いて、中を覗き込む。



「……忘れた」



やっぱり、夕方にブーケのお客様の時に使った花切狭を、作業台のところに置いたままだ。
ぴたりと足を止めて、考えてしまう。


例えばこれが、携帯や定期やお財布だったなら迷うことなく引き返せたのに、忘れたのは花切狭。


家で使うのは、たまにお母さんの生け花に付き合うときくらい。
別になくても構わない、お気に入りで手に馴染みがいいというだけのことだ。


そして、駅はもう目の前。
本当なら、そのまま電車に乗るところだ。


だから、ここでくるんと道を引き返してしまうのは、花切狭を忘れたことはただの口実で、店が気になるから戻りたい、というのが本音だということを自分で重々承知していた。


私の知らない、何かを知りたい。
私一人、蚊帳の外に居るのはもう嫌だ。